忍び寄る正常眼圧緑内障(NTG)
正常眼圧緑内障(NTG)とは?
正常眼圧緑内障(NTG:Normal Tension Glaucoma)は、日本では40才以上の人口の3.6%、約300万人いると言われています。糖尿病を持っている人が同人口の5%程度と言われているので、それと比較してもけっこう高率なことがお判り頂けると思います。自覚症状に乏しく、人間ドックや、たまたま眼科を受診して発見される事が多いことが知られています。最近ではテレビCMでも「NTGってなに?」というのが放映されていて、ご存じの方も多いと思います。
眼の中には房水という水があり、その圧力、ボールに例えるとボールの空気の「張り」が眼圧です。正常の眼圧は10~20mmHgですが、その眼圧が眼底にある視神経を圧迫して、視神経が徐々にやせて凹んでしまい、見える範囲である視野が欠けてくるのが緑内障です。眼圧が高い場合が普通の高眼圧の緑内障ですが、眼圧が正常範囲内なのに、視神経がやられて陥凹してくるのが正常眼圧緑内障(NTG)です。視野欠損は治療しないとゆっくり進行するのですが、視野狭窄がひどく進行してしまうと、末期には失明に至る事もあるため、注意が必要です。
白内障とは違うの?失明するの?
緑内障と聞いて、「白内障とどうちがうのか?」と思われる人もあると思います。白内障は眼の中のレンズが濁る病気で、手術によって視力の回復は容易です。しかし、緑内障は、眼の中の視神経が侵される病気で、視野が狭くなり、治療によっても失われた視野は二度と戻りません。
逆に「緑内障は失明する病気だ」として恐れる方もおられますが、そういう方には、私は次のように説明しています。「緑内障は失明すると言って恐れる方が多いですけど、緑内障は高血圧と似ていますね。高血圧は血圧が高いので、動脈硬化が起こって、脳出血や脳こうそく、心筋梗塞なんかが起こって死んじゃう訳です。緑内障は眼圧が高いか、高くなくても視神経がやられて凹みが大きくなり、視野が狭くなって、失明するわけです。でも、高血圧だからといって死ぬ、死ぬといって恐れる人は居ないでしょう?それは、血圧を適正にコントロールしていれば、そんなにそれ以上に進行しない事をみなさん知っておられるからでしょうね。緑内障もそれと同じで、眼圧をしっかりコントロールしていれば、それほど進行しないんですよ。ましてや失明なんて、眼科でしっかり診てもらっていれば、そうそう起きませんよ。」
ただし、次のようにくぎを刺しておきます。「だからと言って、放っておいていいという訳ではありませんよ。高血圧も緑内障も、治る病気ではありません。大人になってからの病気は高血圧でも糖尿病でも、大体は治るものではなく慢性のものです。ただ、治りはしないけど、コントロールして行けば、そんなに問題なく一生過ごせるんです。だから、定期検査を怠らず、しっかりやっていきましょうね。私も出来るだけの事はしますが、あなたの協力が無ければ何にもなりません。よろしくお願いします。」
正常眼圧緑内障(NTG)の治療
私は大阪大学眼科の緑内障外来で3年間にのべ2000人程度の緑内障患者さまを診て来ました。いちどきに大体800人の患者さまを経過観察していたことになります。1997年にイワサキ眼科に移ってからも、本院、本町分院、大丸分院で、大学からの50人程度を含め150人程度の緑内障患者さまを診させていただいていました。2015年現在では400人以上に増加しています。その中の半分以上が正常眼圧緑内障(NTG)です。働き盛りの30才台から70才台まで広く分布しています。眼科ではポピュラーな病気ですが、難しくて進行する症例は、経験のある緑内障専門医が診察するのが良いと思われます。
正常眼圧緑内障(NTG)の原因はまだはっきりとは判っていません。眼圧が高いと進行しやすいので、治療は、まず眼圧下降です。そのためにはまず点眼薬を使って眼圧を落とします。正常の眼圧レベルのものを落とすのはなかなか困難ですが、最近プロスタグランジン製剤という良い点眼薬が登場し効果を上げています。それでも進行するときは視神経の循環改善を目指してカルシウム拮抗薬という内服を使用します。それでも進行が見られ、生涯を通しての視力が保持できないと思われる場合は、手術によって眼圧を劇的に下げる事を考えなくてはなりません。
入院手術を必要とするので、当院だけでは対処できず、他の入院手術を行っている専門医に紹介しています。手術後は連繋を取り、その後の診察は基本的には又当院に戻っていただいています。
さいごに
知らない内に忍び寄ってくる、正常眼圧緑内障。
40才以上で、人間ドックで定期的に眼底写真を撮影していない方、もしくは眼科で定期検診等を受けておられない方は、一度当院で検診を受けられたらいかがでしょうか。